中途退学者の定義と現在の統計
中途退学者とは、義務教育就学年齢にある児童生徒のうち、過去に教育機関に在籍していながら、就学を継続することなく、その途中で退学し、義務教育の9年間を修了するまでに通常の就学に戻ることができない児童生徒を指します。教育省事務次官室のデータによると、2022年には、全国の政府および私立学校の生徒数は12,223,247人でした。一方、同統計によると2022年の2学期に中途退学した生徒(7~15歳)が52,808人に上ることが明らかになりました。
中途退学の理由
多くの教育者が、タイの子どもの中途退学に影響する要因に就いては様々述べていますが、国立初等教育委員会事務局では、中途退学の理由は次のようなものであるとまとめました。
(1) 生徒自身に起因するもの:
• 勉強に飽きた。
• 勉強が遅い、友だちについていけない。
• 教師や友人など学校の環境に適応できない。
• 事故、障がい、病気
• 早期結婚により学業より家事・労働を選択。
• 薬物中毒
(2) 学校の環境や教師に起因するもの:
• 教師の教え方が不適切。
• 教師が理性よりも感情で罰を与えたり、不適切な言葉を使ったりすること。また、 正義感の欠如や子どもに対する偏見。
• 教育や学習に適切なメディアや設備がない。
• 興味深く、勉強したくなるような学習活動が出来ていない。
• 老朽化した校舎、汚れたトイレ、生徒数に対して教室が足りず共同教室を使わざるを得ないなど、学習に適した環境や雰囲気がない。
• 学校が遠く、通学が不便。
(3) 家庭、地域、環境に起因するもの:
• 家庭が貧しく、子どもが家計を支えるために働かなければならない。
• 両親が離婚しており、家庭が崩壊している。
• 親が転勤族で、定まった住まいがない。
• 保護者がおらず、子ども同士で暮らしているケース。
• 家族が教育のもたらす意義を理解せず、教育の重要性を無視すること。
• 親が薬物中毒であったり、障害や病気を抱えていたりすること
問題解決への対策の提案
中途退学者の問題を解決するための対策については、退学後追跡可能な児童生徒と不可能な児童生徒夫々に対する的確な対応を図ることと共に、最も重要なポイントは、生徒が退学を決意したり、単に学校から姿を消したりするのを防ぐことです。問題やリスクを未然に防ぐための対策については以下のように提案されています。
1. 中途退学のリスクのある子どもたちを選別する。
退学しそうな子どもは、親の仕事を手伝わなければならないために授業や試験を欠席するなど、特定の行動を示すことが多い。よく食べなかったりするため、疲れきっていたり、やせ細っていたりして空腹そうに見える子もいます。また、学校がつまらなくて不機嫌そうに見える子もいます。これらの行動は、子どもが勉強する準備ができていないことを示しています。このような子どもたちをスクリーニングできれば、問題を抱える子どもたちへのより丁寧な個別対応に進めることができます。
2. 子どもたちの家族に教育の重要性を理解してもらうこと。
タイでは今日でもなお、勉強はお金を稼ぐ機会を失うため、時間の浪費だと教育の重要性を無視する家庭が信じられないほど多くあるのが事実です。このような考えを持つのは、その家族の誰も高いレベルまでの学校に行ったことがないからかもしれません。奨学金を支給することは、この問題を解決するための一部ではありますが、子どもたちの家族に教育のメリットについて理解を深めてもらうことも重要です。教育を受けることで、子どもたちが自分の得意なことに気付き、明るい将来のためにそれを生かそうという意識を持つことによって、子どもたちは毎日見ているもの、生活しているものを超えて考えることができるようになります。定収入のない目先の仕事に就くために学校を中退して自らの将来への可能性を塞いでしまうのではなく、教育が真に人生を変えられることを強調するさまざまな事例を示すことによって、子どもたちが自分をポジティブに捉えることが出来、明るい未来を築く自信を持てるように導いていくことが極めて重要な課題です。
3. 危険にさらされる子どもたちを見守ることの出来る社会的ネットワーク作りやコミュニティの強化。
多くの子どもたちは、面倒を見てくれる人がいないため、教育制度からドロップアウトすることを簡単に決めてしまいます。統計によると、36%の貧困層の子どもが、親はいるものの別居していると明らかになっています。出稼ぎに行っているため、老人手当にしか頼れない祖父母に預けられています。一方、両親と一緒に暮らしている場合でも、両親が生活の為お金を稼ぐことに精一杯で、自分の子どもと話す時間が極めて少なく、そのため、こういった環境下の子どもたちは精神的に弱いのが一般的です。勉強のことでも何か問題や不安が生じたときでも、励ましたりアドバイスをしたりしてくれる人はいません。このような状況の下では、教師も子どものことについて家族の誰に相談すればいいのかわからなくなります。その為にも地域社会が危険な状態にある子供達の見守りと支援の一翼を担うことは、学校中退を防ぐのに極めて重要であると考えられています。
これからの解決方法の実現への課題
生徒の中途退学問題を解決するためにタイ社会でよく取り上げられる課題は、教師が事務処理と教えることの両方で重過ぎる仕事量を抱えていることです。特に小規模校ではその傾向が顕著に見られます。一人の教師が多くのクラスを管理しなければならないため、子どもたちの行動を観察することが難しいのです。生徒の家庭を訪問することで、保護者と教師の間に信頼関係が生まれます。そうすることで、保護者は自信を持って子供たちの問題を話し、報告することができるようになり、学校はそれをもとに問題を解決するための計画を立て、子どもたちの退学を防ぐことができるのです。しかしながら、残念なことに、教えること以外の仕事量が多過ぎてそれを行う十分な時間がないのが実状です。さらに、最も懸念されるのは、これが普通に繰り返されている状況であり解決されるべき問題だとは認識されていないことです。この為何もできないまま、適切な解決策が真剣に議論されることもありません。
このような問題が未解決のまま長引けば、子どもたち自身への悪影響に加え、必要な一定の収入を得られる仕事に就いてより良い未来を手に入れることができず、結果的に貧困の連鎖から抜け出せない人生を送ることになります。また、国の発展を支える熟練労働者や高度な技術も不足するという悪影響にも繋がります。社会の面では、学歴の低い人々の所得は、少なくとも学士号を取得した人々からさらに引き離されることになり、所得と地位の格差・不平等が以前よりもさらに拡大することに違いありません。その結果、経済的リスクが高まり、犯罪などさまざまな社会問題が発生する傾向が強まります。タイは中所得国の罠から抜け出せず、発展途上国であり続けることになります。
この様な将来の国の在り方を支える人材を育成していくためにも、この「中途退学者を回避するための取り組み」に象徴されるように、基本的な教育をしっかりと全ての国民が受けられるという仕組み作りと支援体制の確立が急務であることは言うまでもありません。
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